- 光をつくる黒い壁 -

 

   
ガレージからギャラリーへの改修設計    
用途:ステンドグラス・ガラスアーティストのためのギャラリー・店舗    
所在地:東京都府中市    
延床面積:30u    
設計:冨川浩史+工藤貴子    
     

初めて僕らに来た仕事です。このプロジェクトはお施主さん抜きには語れません。クライアントは僕らより少し上の女性で、ステンドグラスのアーティスト。当時ホームページも何も持っていない僕らを、ネットで検索して探し出したツワモノです。競合相手もいて、少ない予算でしたが、初めてお会いした時のお話に心を動かされお引き受けすることにしました。気合一発で持って行った案をとても気に入って下さり、僕らにやらせてくださることになりました。

慣れない改修工事。初めてのこともたくさんあって必死でした。お金もなくコンクリートへの打ち込みボックスや作品を取り付けるポールまで自作。今でもいろいろな出来事が重なったこの時のことを鮮明に覚えています。お施主さんにもいろいろと御迷惑をおかけしましたが、今の僕らのスタートを切らせてくれた、そのきっかけをくださったことに本当に感謝しています。

   
    *Hiroshi Tomikawa
     
 
 
 
 
 
 
 
 
     
  Hiroshi Tomikawa+Takako Kudo
  Hiroshi Tomikawa+Takako Kudo
 
     
光をつくる黒い壁(2005.0405)    
     

府中は小さなギャラリーが街中に点在する街である。ギャラリーめぐりをできるアートタウンとしての一面を持ち始め、各々のギャラリーを渡り歩くことで街歩きも同時に楽しむことが出来る。大規模再開発とは異なる、地道だが確実な街の活性化が、個人レベルの活動に支えられて進みつつあるように思える。この府中市内の一角に RC 造、築 30 年のワンルームアパートがある。その 1 階にはガレージを改修した美容院があった。ここを再度改修してアートタウンの一部として、ガラス工芸のギャラリーにしたいという話が来たことからこの計画は始まった。

潤滑な資金があるわけではなかったが、自身がステンドグラス・アーティストでもある施主の情熱に心を打たれ、ガラスアートの展示にふさわしいギャラリーとは何かということを純粋に模索することになった。

ギャラリーというと白い壁のホワイトキューブが思い浮かぶ。しかしアーティスト達へのヒアリングの結果、白い壁面では明るすぎてガラス作品の持つ素材感や輝きを素直に見せることが出来ないという問題を皆が持っていることがわかった。アーティスト達は毎回展覧会のたびに、ギャラリーの壁をわざわざ黒くしているという。

そこで私達は、「光は闇と共に存在する」というコンセプトと共に「黒い壁の黒いギャラリー」を提案した。ステンドグラスの展示に必要不可欠な照明器具を自由な位置に取りつけることが出来るように、鉄板の黒皮素地にウレタンクリアを塗るだけというシンプルな素材によって「黒い壁」を作ることとした。

黒い鉄の壁は外の光を受け、ガラスの輝きを受け、中にいる人々の像を受け様々な表情を作り出し、強いメッセージを街へと発信する。 究極的には、クリア仕上げの鉄板と作品があればこのギャラリーの活動であると住民が理解できるようなシンプルなメッセージを作り出したいと考えた。

ようやくギャラリーが完成したばかりで、今後しばらくはどのように使われるか試行錯誤が続くと思うが、素材を限定したシンプルな空間は使い方を問わない。ガラスアートのための空間として、時代を問わず教会とステンドグラスと人の関係のような変わらぬ関係を築いていければと願う。

完成と共に、このギャラリーは施主によって黒磁廊(くろじろう)と名づけられた。
   
     
     
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